『Chance!!Vol.35秋号』ご挨拶に代えて
カテゴリー:お知らせ,ヒューマン・コメディ
ご挨拶に代えて
今号では、松本麗華さんに登場していただきました。オウム真理教事件の松本智津夫元死刑囚の三女です。なぜ彼女に話を聞いたのか、その経緯を書かせてください。
4月に、『「加害者家族」と共に生きる社会』というトークイベントに行きました。彼女を追ったドキュメンタリー映画『それでも私は Though I’m His Daughter』の上映後に、監督とご本人がトークするというものです。登壇者には彼女のほか、和歌山カレー事件の林真須美死刑囚の長男・林浩次さん(仮名)と、広島連続保険金殺人事件で父親が母親を殺害した、大山寛人さんの姿名前もありました。
会場は渋谷にある座席数178の映画館。ほぼ満席で、客層は社会意識の高い若者から中高年まで。基本的に松本さんを応援したいという、あたたかい空気がありました。
私はオウム真理教が起こした事件を、少しも肯定していません。地下鉄サリン事件が起きた日の朝、大学生だったの私は電車に乗っていました。前を行く電車で何かトラブルが起きた、というようなアナウンスが流れ、帰宅してから事件を知りました。だから、いまでも他人事とは思えません。事件後にメディアが報道する「アーチャリー」という少女は妙に大人びていて、”排他されるべき不気味な存在”として映っていました。
しかし、会場で目の当たりにした彼女は違いました。「事件の責任についてどう捉えていますか」という質問に対しても、麗華さんは決して逃げず、淡々と、しかし誠実に答えていました。その謙虚で真っ直ぐな受け応えと独特の佇まいに惹かれ、この人とお友達になりたいと思いました。社会に対する恐怖と闘い続けてきた彼女は、過去や生い立ちを消すことはできなくとも、これからの生き方は自分で決められるということを伝える力を持っている。いまの彼女の姿を、本誌の読者に伝えたいと思い、取材をお願いしました。
取材の席で目の前に座る彼女は、少し触れれば崩れてしまいそうな脆さと、伝えるべきことは毅然として伝える強さを併せ持っていました。「これ以上、彼女を傷つけることのないように」。私が考えていたのは、ただそれだけでした。
今回の特集記事のを掲載するにあたっては、懸念もありました。事件後も彼女が教団側から資金援助を受けていたという過去の報道が過去にあったことも認識しています。しかし麗華さんは現在、後継団体や教団の活動とは「一切無関係」であることを一貫して表明し、教団の解体を訴えています。私たちはその言葉を、正面から受け止めました。
加害者の家族というだけで、社会から居場所を奪われ続ける現実が、この国にはあります。『Chance!!』は、誰でもやり直せる社会をつくるために存在します。過去に何をしたか、誰の家族かという「属性」と、その人自身を切り分けて向き合うこと。それは口で言うほど簡単ではなく、私自身、迷うこともあります。あの日、会場で彼女の話を聞くまで、私の中の「アーチャリー」が、テレビの中の存在のままだったように。
今回、彼女に話を聞いて、あらためて思いました。人は、変わることができる。そして、変わろうとしている人の隣に立ち、その声に耳を傾けることこそが、私たちの仕事なのだと。これは、いまこの誌面を読んでいるあなたに対しても同じです。あなたが変わりたいと思ったとき、その思いが形になるための道を、これからもひとつひとつ作り続けていきます。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
2026年8月8日
Chance!!編集長 三宅晶子


